体を鍛えよう
日頃現役選手らといろんな形で接していると学生も社会人もフットボール以外の用事が忙しい。とにかく忙しい。と僕には感じます。学生は本文である学業の手を抜く事はありません。最高の大学で最高の授業を受けられるわけですから1分足りとも無駄にしてはもったいない!と理解しているのでしょう。皆非常に賢く立派で親孝行です。また社会人選手は平日の全てが仕事と家庭で埋まっており、時間を作ってトレーニングなどが出来ればまだ良いほうだと思います。誰一人としてフットボールの準備に十分な時間を費やせていない事は明白ですし当然のことです。
ただ、そういう中でも「ニッポンイチ」を目指すのならば話は違ってきます。授業や仕事で埋まっている時間を無理やりどうにかして「ニッポンイチになる準備」をしなければいけませんが、果たして「ニッポンイチになる準備」とはなんぞや?という会話を選手たちとしょっちゅうしています。
対戦相手のビデオを何度も見て相手の全てを調べ尽くす。多くのセットプレーを考え出してミーティングする。みんながそれを覚えているかどうか確認する。ここらへんの所までは昨今のフットボール選手であれば「やるな!」と言ってもやり通します。それが大好きだし作戦さえ揃えておけば勝てると信じているからです。僕が担当するオフェンスの選手は作戦を提案して相手守備全員を欺き、誰にも触られずにエンドゾーンまで行くプランニングがとても大好きです。
しかし、フットボールの試合でそんなシーンは滅多に見ることは出来ません。痛んで疲れた体で相手に突進し、体力も気力も果てるまで格闘するのがフットボールという競技の特徴ですよね。
他のポジションでも大きくは変わらないとは思いますが、ランニングバックの場合はボールを持つ、持たないに関係なく毎プレーで屈強な敵のディフェンダーに激突する事が殆どです。疲労してくると集中力が散漫になり安全に強く体当たりする事が出来なくなってきます。心も体もフレッシュで気合い満タンな開始早々の時間帯では隅々にまで払えた注意力も時間の経過とともにみるみる落ちてしまいます。
その時、体に染み込んでいる「基礎基本」が出てきます。過去に最も多く使った方法を体が自動的に呼び出してきます。たとえそれが間違ったモノであっても関係ありません。しんどい時に高効率で体を素早く強く自動運転する方法は多く繰り返してきた「基礎基本」だからです。
しかし僕が携わった選手の殆どがこの「基礎基本」を間違って教え込まれているのです。これは彼らを最初に指導した人の責任ですが、この血を入れ替えるという作業に腐心しています。年月をかけて培ってきた考えや技術はそう簡単には入れ替わりません。ですからこの作業は選手と僕が対話しながら少しずつ修正しています。
ところが上記のような基礎基本の入れ替えに手間取りすぎて「身体能力は業界最高レベル」を備えるのがタモン式の大前提であったはずなのをウッカリ忘れていました。僕の場合は高いレベルでフットボールする前にパワーとスピードを用意していたので、あとはインテリジェンスとテクニックを装着すれば一流になれると信じてやっていました。ですから高い身体能力はそもそも備えておくものだ。という概念が邪魔をして選手らにそこを厳しくしておくのがおろそかになっていたのです。
筋肉を付けて体重が重くなり膝などの関節に悪影響が出る、運動方法が変化して受傷率が高くなる、など大きく強くなることに対して様々なネガティブ論がありますが、ランニングバックは体重制スポーツでない上に不特定多数にあらゆる方向からコンタクトされるのです。ですから最強のランニングバックになるためにはどのように身体能力を向上させるべきなのか、一般的な知識を学んだだけのトレーナーらでは初級者にしか指導できない事が殆どです。
速くて器用な選手はパワーアップに無関心。体重の重い選手は持久力に無関心。身体能力が全般的に高い選手は細かいテクニックや作戦に無関心。インテリジェンスの高い選手は身体能力向上に無関心。ニッポンイチを競うレベルに於いて、強くて速くて上手くて賢いという理想的な選手など殆ど存在しません。誰しもが何か抜け落ちていたり苦手だったりします。これは米国プロレベルでも全く同じで、全てを備えた選手は超有名で高額ギャラを得ています。プロなのに無名で低賃金の人は何かが抜けているのです。アマもプロもレベルが違うだけで結局同じです。
話を戻しまして、体のあらゆる箇所にタックルやヒットを受けまくるランニングバックが怪我する確率を少しでも下げようとするならば、テクニック以外の部分では体を鍛えるしか無いのです。筋肉を分厚くしておくのも良し。力を強くするのも良し。どれだけの回数ダッシュしても疲れない持久力を持つのも良し。これらの事は、時間と回数を使えば必ず効果が出るのだからとにかく毎日やりましょう。と、このコラムでも何度となく唱えています。
昨日の自分、先週の自分に今日は勝つ。過去の自分には絶対に負けない。毎回の鍛錬で過去の自分を超えたる。この気概が強ければ強いほど良い選手に近づきます。その少しずつの積み重ねが後になって大きなものになるのです。最後の最後に出てくる一番デカくて強い敵は結局自分です。相手の強さや作戦がどうとかこうとかは関係ありません。自分のやるべき事をやるべきやり方で出来るかどうかにかかっていると思います。
フットボールはビデオゲームでもなくチェスでもありません。根性を擦り減らして体と体をぶつけ合う格闘技です。数年前のNFLドラフト会議で殿堂入りのDEチャールズヘイリーが「ドラフトされたからどうした。大切なのは試合に出て相手をブチのめすかどうかなんだよ!」とコメントしました。鍛えて鍛えて戦いまくったスーパーボウルリングを5個も持つ大男の言うことには重みがありました。
これを読んでくださった本気のランニングバック諸氏はどんな方法でも良いのでチームの誰よりも体を鍛えてとにかく強くなる事が大切です。強く速くなりながらフットボールの奥の奥まで勉強しテクニックを磨いておけば自動的に根性も備わってきます。いざという時に実力を発揮できる集中力と度胸も養われます。全力で不可能なことに激突して敗北しながら毎日ほんの少しずつだけ成長すれば最後には自分の望むトロフィーが手に入ると思います。頑張りましょう!
