1999年3月18日
フロリダ合宿も数日が経ち、毎日続くハードな筋肉痛と例の「スネいた(シンスプリント)」で心が病みかけているところにやって来ました新しい問題。
朝、ベッドで目覚めると腰のあたりが痛すぎて起き上がることが出来ません。何かの間違いだろうとストレッチみたいな事をしてみてもダメ。立ち上がるだけでとてつもないエネルギーを要します。この2時間後にはプロのアスリートたちに激突する運動が待っているのにとても困りました。
仕方なく、今まで縁がなかった「トレーナーの部屋」を訪れました。いわゆる治療所ですね。最悪、病院行きとかになればしばらく食事できない可能性もあるので、先に大好物ばかりが並ぶ朝食をたらふく摂ってから行きましたけどね。
英語で痛みの症状を告げるなどという勉強は一切していませんでしたので、体の部位を言うだけでも精一杯。「ソアー(SORE)」と前に誰かが痛そうにした時に叫んでいたのを覚えていたので言ってみました。おー伝わった。「ロウワーバックがソアーやねん。ペインやねん。起きたらめっちゃソアーやねん」と。じゃあどう痛いのか、なぜ痛くしたのかとまたまた深い英会話を求められます。普通に寝てて、さっき起きたら痛かった。と言うだけでそりゃもう大変です。なんとか伝えてスグに治してもらわないと練習に行けませんから、早い事「ゴキゴキッ」みたいなのをやってもらいたかったのですがトレーナーらの処理はとりあえずうつ伏せに寝て暖かい何かを腰に乗せそこでブザーが鳴るまで寝てろ。でした。
20—30分ほど経ち「ぶーーーー」とブザーがなりトレーナーが近寄って来て「どやタモン?治ったか?」腰を温め動きやすくなっていたので「うん、オッケー。治った!」と言うて治療台から飛び降りたらさっきまでより激しい痛みが襲って来ました。「イターーーー!!!!」と叫ぶ僕にトレーナーは笑いながら「タモン。スリープファニーや!」と言いました。
「スリープファニー? SLEEP FUNNY?」「イエス。SLEEP FUNNY。ククク」
うーん。寝転んで動けない今の僕を揶揄してそう言ってるのか、病名なのか?どうやら病名なようで、2019年現在、ネットでこの言葉を検索しても出て来ません。
日本語ではおそらく「寝違え」が適当だと思います。ただ、この「寝違え」か「ぎっくり腰」かわかりませんが4日も練習を休んでホテルで寝ていました。気を付ける方法も無いのでこれからアメリカにチャレンジされる皆さんは是非怪我や病気の症状を伝えられるようになっておくと良いかもしれませんが、ヘタクソが怪我しても心配してもらえないことの方が悲しいかもしれませんね。
で、おかげで「スネいた」も完治し「寝違え」もスッキリ消滅。5日目に練習復帰してからは何事も無かったかのようにスクリメージを楽しみました。
1999年3月22日
今週末からはNFLE全6チームともが対戦型スクリメージ(ルールはマジのタックルだったり、タッチだったりと色々)が催されます。これはNFLで言うところの「プレシーズンマッチです」。日本風に言うと練習試合であり、オープン戦みたいなものです。2週間で4ゲームというか対戦が企画されていて、選手にとっては自分の力をどれだけ発揮できるかを競い合う重要なイベントです。NFLのマイナーリーグ雇用か解雇か、人生の分かれ道になる重大なスクリメージですので当確線上ギリギリの選手らは緊張感に溢れまくっています。
チームではこれまでの2週間でレギュラーシーズン向けに用意された作戦だけを練習して来ています。プレシーズンマッチで勝敗はどうでも良いとは言え作戦をそれほど隠さずに練習試合に臨むのですが、この辺りも僕の知っている多くの日本のチームとは感覚が違っています。選手たちがいかに「目前の敵との格闘に集中できるか」にマトを絞ったシンプルなスキームが用意されています。
この練習試合に僕も出場するのですが、昨年はマグレだけがただ一つの希望でしたが今年はビビらずにガッツリと勝負したいのでSLEEP FUNNYから蘇ったあとは「アメリカ人プロと勝負!」という大それた企画を自分の中でしっかり作りこみ、毎日の練習で学びと上達を繰り返していました。
1999年3月27日
いよいよ対外スクリメージです。ディフェンディングチャンピオンの我々の1回目は新参チームである「ベルリンサンダー」です。ロンドンのチームが人気低迷を理由に消滅した代わりに登場しました。お陰でロンドンへの遠征が無くなってしまったのは残念です。昨シーズン、初めて試合でボールを持たせてもらった記念すべきチームでしたが無くなってしまいました。
フロリダ州オーランドでのイベントならではの場所「ディズニーワールドスポーツ広場(っぽい名前だったような)」で開催されるベルリンサンダーとのスクリメージも催しのひとつだったのでしょうけれども、フィールドから少し離れた芝生の上でスーパースターを近くで見る機会がありました。
プロ入りは僕と同期の1998年。ドラフト1位でインディアナポリスに入団したペイトンマニング君が記者に囲まれフォトセッションをしていました。2m級の大きな体で、おデコが長く顔つきがそれほど精悍でもなかったので最初は昨年のスーパールーキーだと気付かず「この弱そうな奴誰やったかいな?どっかで見た覚えがあるような無いような。あああー!!マニングや!!」。と通り過ぎてから後悔。ヘルメットにサインしてもらえば良かったと。でもこれから練習だしペン持ってないよ。。。
話を戻しまして、今回のキャンプも昨年同様にNFLから招かれている日本人コーチらの姿も多くあり、知った顔のコーチらの前で恥ずかしい姿を見られる恐怖はとても複雑でした。
その中でもこのスクリメージを終えた後に色々とアドバイスをして下さった方が、現在ノジマ相模原ライズでスペシャルチームコーディネーターをされている加藤さんでした。加藤さんは日体大のOBで、最強時代のオンワードオークスで玄人受けする本格派フルバックとして名を馳せた名選手。テレビで放送されるビッグゲームでのご活躍を見て憧れた僕のアイドルの一人です。
それほど面識があった訳ではありませんでしたが、頂いたアドバイスは今でも若い選手たちに指導する時に使わせてもらっている内容は非公開です。
今回のベルリンサンダー戦の詳細は記録していないので今となっては不明なのですが、まあ少しは日本人ランニングバックとしての世界ランキングを上げられたのではないかなという程度でした。
前述したように、このスクリメージは選手とチームが契約を続行するか打ち切るか、トレードなどの判断材料となります。期待に応えられなかった選手は解雇。生き残った人もまた3、4日後の次回まで延期されただけ。
クビになった選手は翌朝早くに宿舎を出ていき、チームミーティングに姿を現さないので残存選手が「あ、あいつ居ないわ」となる世界です。今年から社会人エックスリーグも登録選手数に制限が設けられ、非登録者は練習生としてもチームに残れなくなるというルール変更がされるような事を聞きました。
全てのエネルギーをフットボールに注ぐ熱い選手でないと生き残れない仕組みは、甘い人を淘汰できますし、競技レベルも向上する事でしょう。ノジマ相模原ライズはパールボウル1回戦を突破。未達のパールボウル決勝進出を決めるまであと2戦。モリモリと仕上がって来ております!!!
