このところ、僕が普段どのようにランニングバックに指導しているのか?のようなことを書いておりますが、まだ他にも色々あります。いよいよシーズンインが近づいてきておりますので、チームの運営は個人能力アップに特化せず、ゲームに向けた練習へシフトしています。セットプレーの微妙なタイミングや位置取りを突き詰めるといった作業です。
とは言え、NFL選手とは違ってもうこれ以上上手くならないなんてレベルの選手は僕の周りに存在しませんのでゲームが有ろうと無かろうと関係なくやらねばならない練習や指導は数多く存在します。
細かい技術や考え方は、普段の座学やグランドでの実技練習で色々とレクチャーしています。いずれも大切なことばかりです。しかしいざ「ゲーム」という戦いの場でいちいち思い出しながらプレーしていても勝ち目はありません。体が勝手に動くという「自動運転」になるまで訓練して身につけないと意味や効果はありません。ですから自分や自分たちより強い相手に勝つことは出来ません。
有利でない状況でチャンスを招く方法は絶対的に「思いっきり動く」ことに尽きます。学生時代、僕が水泳の指導者をしているときの事です。日本赤十字社が主催する溺れている人を救助するという授業を何度も受講していたのですが、この時の注意事項で最も重要なことの一つに「小さな子供といえど溺れていれば大男と匹敵する力でしがみ付き、生きようとする。命懸けで臨まねば助ける事など不可能であり、とても難しい」と厳しく学びを受けました。つまり全力とはこういうことで、小さな子供でもそれだけのパワーを出せるわけです。
だったら私たちのように敵と直接接触して強さを競い合うスポーツをしている者としてはこの「全力を出す」ということもテクニックの一つとして重視しなければならないんです。息を細め繊細な技術を競い合う競技ではありませんからね。暑さや寒さ、恐怖や痛み、いろんな邪魔がランダムに襲いかかってくる中で「早さ、強さ、上手さ、賢さ」を競い合うのがフットボールでありランニングバックです。
選手たちの練習を見ていて「あれ?」と思う事があります。ボールを持って人と人の間を駆け抜ける練習ドリルの時です。激突があるかどうかは決めずにランダムになっていて、そのまま走り抜けられる場合もあればガシャンと激突がある場合もあります。この練習を一生懸命やっているのですが、先ほどの「小さな子供が大男さながらのパワーを発揮する全力の状態」ほどチカラを入れてやっていない事に気づきました。もうすぐ激突があるかもしれないという少し先の未来をじっくりと見たいが為に、ほんの少しだけスピードやパワーを割り引いているのです。
持てるチカラを少し割り引いてプレーしてもゲームで相手を凌駕できる能力があるならそもそも技術練習などそれほどせずに、セットプレーの練習だけをやっていれば良いんです。でも大抵の選手はゲームで相手と互角の能力だと推測されますので、チカラをセーブして練習しても効果など生まれずに頑張って汗を流したよねー!という思い出だけが残るレジャーになってしまいます。
ランプレーでもパスプレーでも、その種類によってやらなければならない約束事がそれぞれに存在します。ボールを落とさないようにしっかりホールドし、敵や味方の動きを把握する為に周囲を見渡し、といったランニングバックにとって基本的な常識も含みます。
こういった事を守らねばならないという負荷がかかり重荷となった結果、自分の持てるスピードやパワーを最大限発揮するという闘争の根本的なルールを疎かにしてしまうのです。
足が速い、激突に強い、だからランニングバックをしているのに荷物が多いからアクセル全開にせずちょうど良いスピードで走る。これは完全なる本末転倒です。ヘタクソでも良いしミスしても良い。相手にぶっ倒されても構わない。でも闘争心を丸出しにして、勇気と自信を持って全力のそのまた上の全力で走り回ってこそ明るい光が差し込まれるかもしれないのですから。
練習だから思いっきりやらない。ゲームでは思いっきりやる。これはゲーム慣れしているアメリカ人だけの組織では通用するでしょう。ほとんどの日本人のフットボール経験値では、練習強度とゲーム強度のギャップをイメージトレーニングだけで補う事などできません。アメリカ人は全部が凄すぎて練習でゲームのような激突をしていたら選手生命が脅かされるので、ヒットしない寸止め技術を向上させ、うまい具合に練習精度が落ちないよう工夫されています。この技術は僕が20数年前にアメリカ人プロ選手らと練習する時に最も驚かされたことのひとつでした。
一方日本の練習では単に速度を落としヒットの強度をグッと下げて、ゲームとは甚だ違うレベルで練習をしてしまっています。日本人同士がしっかり走ってきてしっかり当たったぐらいでは大きな怪我につながる確率などとんでもなく低いのですから、ある程度は経験しておかなければ結局ゲームで怪我をして2度とフィールドに立つ勇気が湧かなくなるでしょうし、体も元に戻らないかもしれません。
激突した経験が少なすぎて、どのぐらい思いっきり当たれば良いのかすらわからなくなった選手が多くなり、接触の寸前で力一杯に地面を蹴り体を固めないといけないのにアクセルを緩め減速しながら「チョコン」と当たる練習をしていてはゲームの日にロクな仕事が出来ず、誰にも知られぬままフットボール選手でなくなる日が来るだけです。
昔のように、相手選手を怪我させてやるなんて意気込み(実際には狙って怪我させる事なんて1度も出来ませんでしたけど)が当たり前だった時代を正解だとしていては進化出来ませんが、強さを重視する競技なのですから学生スポーツのような教育の一環でやってるわけじゃない社会人スポーツですし、スピードとパワーが入り混じり頭脳プレーと派手な激突で観客を興奮させる選手を目指してもらいたいなと思って日々の指導をしています。
いよいよ今週から長いリーグ戦が始まりますね。選手が大きな怪我をせず、ド派手に暴れてくれるように願っています。
タモンズスタイル28aug2022
