多聞コラム21may2016_vol,132「ゴリゴリ多聞、自伝を語る62」グリーンベイその8

 日本人がNFLでスターになる(又はギリギリでもいいから入団する)ことがいかに難しく、現存の日本フットボール界にはそのような人材は見当たらない。少なくともスキルポジションには不在である。という悲しい説をこのコラムで何度か書いていますが、殆どの方は「そんなことない」「肉薄している」「段々追いついている」「ある部分では上回っている」という楽観的な解釈をされています。読者の皆さんがどう考えようが、書いている僕がどう考えようがそれは個人の自由です。

ただ僕はNFLを、吐息や匂いを感じられる距離で見て、勝負してヒットしてタックルされて感じた事をリポートしています。尚且つこれは20年近くも前の事です。日本の最新のフットボールはテレビや試合会場で見て知っていますし至近距離で練習を見物する機会もあるのでよく理解しているつもりです。しかし残念ながらモノクロテレビ時代のプロフットボールにすら追いついていないというのが僕の意見です。

50年前の第1回スーパーボウルに今年の甲子園ボウルやライスボウルのチャンピオンが出場したら勝てるのかって話ですね。新しい戦術で50年前の選手らをゲーム初盤翻弄出来たとしても、詰まるところフットボールはブロックとタックルの集合体。60人ほど居た選手も40分ほど経てばタックルされるプレーヤーの戦意が喪失、または負傷退場などで試合は途中で終了することになる。これが僕の見解です。顔を上げてタックルする技術すら浸透していないフットボール後進国にはプロ米国人のタックルを1試合に10度も受ける事は出来ません。まるっきり違う競技なのでMMA(総合格闘技)の試合に出るのと同様、すぐにやられてしまうでしょう。

で、コンタクトの一切無いクオーターバックはどうなのか?というお話です。前回の続きである「ブレットファーブ選手」との関わりで体験したことで3つの代表例を挙げてご紹介したいと思います。

  1. パスの正確さ
  2. パスの柔らかさ
  3. パスの豪速球さ

まずこの1番「正確さ」ですが、ボールを投げるコントロールと言えば野球のピッチャーが出てくると思います。ピッチャーから見て正面にあるキャッチャーに対してのコマ割りで「内角高め」や「外角低め」などを変化球とスピードを調整します。

フットボールの場合は正面に居る相手に投げ込むというシーンは少なく、ライナーではなく少し浮かせたボールで味方選手へパスを放ります。手前には敵味方のラインマンらが居たり、パスの邪魔をする守備バックが居るので彼らの頭越しに狙いをつけます。通常は敵に捕られてしまわないある程度のところを目掛けて投げ、キャッチする者がそのボールに合わせて動いて捕るのですが、超一流のプロは全く違いました。

4.5秒後にあの地点へ投げる」という作戦が(実際には合言葉で決められている)あったとしましょう。彼らはそれをコントロールして4.5秒後に見事その地点にボールを落とすのですが、このボールの弾道を色々な種類で投げ分けるのですね。かなりライナー性の豪速球で投げたり、早めにリリースして大きなフライで投げたり。でも結果は同じで4.5秒後に決められた地点にボールが落とされるのです。同じタイミングの同じプレーが投げ方を変えても成立するのは初めて見ました。

こんな曲芸を間近で見るチャンスは二度と無い事はわかっていたので僕はブレットファーブがボールを投げる時にはいつも彼の2メートルも離れずすぐ後ろに立ち、彼の目線でプレーを追いました。練習レベルでは投げミスなど1%もありません。全て確実に完璧に決まります。キャッチするレシーバーの落球も見た記憶がありません。暴投なし、エラーなし、練習中にボールが下に落ちる事が無いのです。ま、これはNFLヨーロッパでも同じでした。

次にパスの柔らかさです。正確なのは上記で伝わったかと思いますが、ランニングバックへのショートパスももちろん正確です。図のようなコースだと手前のラインマンらが邪魔で投げるレーンは多くて3箇所です。超一流のプロが放つクイックリリースのパスは指先からボールが離れる前にどこに飛んでくるか読めてしまう何かの魔力が働いていて、こちらの最も都合の良いところにボールが飛んできます。飛んでくるというより直接手渡しされているような感覚です。その他のショートパスのコースでも全て同じで理想の場所にデリバリーされます。時と場合、場所によってボールのスピードも違います。投げる動作も上から投げたりサイドスローだったり色々ですがボールは結局理想の場所に到着します。ここまで100%確実だと、誰が何の為に練習しているのかがわからなくなってきます。これはこの時点で7人のプロQBとフットボールをしてブレットファーブにだけ感じた印象です。他の人も日本人に比べると1000倍上手いのですが、抜きん出ていました。ただ、投げる前にどこに飛んでくるかわかる。ということは守備選手もそうなるのでは?だから多くのNFLレコードを持つ彼ですが、インターセプトが著しく多くなってしまったのかな?とも考えられます。

そして3つ目の「剛球」です。意外に思われるかもしれませんが、僕はNFLヨーロッパの試験をレシーバー枠で受験しています。もちろんランニングバックとして申し込みましたが、足の速さとボールハンドリングを重視していたので試験内容がレシーバーとして用意されていました。その中で合格しているので実はパスキャッチもそこそこ出来るのです。自信もありました。

そして練習中にブレットファーブが僕に「へいタモン、WRのとこ(QBから15メートルほど離れた位置)からヒッチ受けろや!」と言いました。日本から来た新人にスーパースターが声をかけたもので、練習を見に来ているギャラリーがザワザワと盛り上がります。多くの注目を集めて僕は動き出します。ブレイクダウンしてファーブの方を向き両手を伸ばしボールを待ちます。するとボールは僕の両手を通り抜け、後方に落下しました。両手で捕ったハズのボールが後ろに抜ける。有り得ません。初体験です。ファーブを見るとメチャメチャ悪い顔で笑ってます。そうです。門限破り事件でヘッドコーチに怒られた時、ファーブを巻き込んだ仕返しです。

それに気づいた僕は彼の方に近寄り「もういっかい」と言い再度チャレンジです。2度も同じミスはしない。豪速球だろうが指が全部折れるような事にはなっていない。絶対に捕れる。ヨシ来い!結果は先ほどと全く同じ。ボールは僕の手を通り抜け後方に飛んで行き隅っこのフェンスにボールがガシャン!と当たりました。さっきはスポッと抜けただけで僕のすぐ後ろにボールが落下したのですが、なんと球威が増しているのです。ギャラリーからは「おいおいがんばれよーアンちゃん!」と励まされ嘲笑されます。

こうなれば3度目です。ファーブの顔はさっきより悪い顔になっています。ギャラリーに見えるように肩をグルグル回して「次は捕れんのかー!!!」なんて言ってこのショーを盛り上げています。

ま、結局ここに書くくらいですから3度目も捕れませんでした。ボールを前に落とすことすら出来ず、ボロ負けです。飛んでくる位置は寸分違わず顔の正面、タイミングも全て同じ、とんでもないコントロールです。

ボールを遠くに投げるピッチングマシーン、古くは「マリーノ君」などと呼んだあの機械で最速にして15メートルも離れてしまえば楽にキャッチ出来ますが、何がどう違うのかファーブの投げる球は捕ることが出来ませんでした。さすがに4回目の挑戦は反省して辞退しました。ファーブに近寄って行き「何すんねんボケ!」と目で訴えると「クックックックフヘヘヘヘー!!」と言いながらハイタッチをくれました。

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