1998年2月28日
ドーピングなどしているワケもなく、怪我を隠しているワケでもないのでNFLが時間とお金をかけて行なった様々なチェックは完全にムダでしたが、このコラムを1話書く事が出来て良かったです。
さて、そしてチームごと(*1)に分かれてミーティングが始まりました。まずはコーチやスタッフの紹介。そしてオフェンスとディフェンスに分かれました。「ほんなら順番に自己紹介していけや。あーついでに抱負も語っとけよ。オイ、そこの端っこからや!」とコーチが言いました。自己紹介って英語でかいな!!そら英語やろ。うそやん!それは無理やろ~。と悩んでいる間にどんどん順番が迫ってきます。「中村多聞ランニングバック日本から来た」なんて言いました。
- (*1)この年は、ロンドン/スコットランド/オランダ/スペイン/ドイツの5カ国6チームで組織されており、アメリカで全員集合し毎週の解雇から逃れられ最後まで残った者だけで各フランチャイズに移動し、3ヶ月10試合のシーズンを過ごす。
そしたら後ろに座ってる奴が「おい、日本から何時間かかった?何時間」って小声で必死に聞いてきます。他の人が自己紹介してる時に、それ初対面の奴に聞くことかこのアホめ!と思いながらドイツ回りやったとは言わず「35時間」と聞くとこの世の終わりか言うほど悲しそうな顔をしていました。1ヶ月後にヨーロッパに行く時のイメージトレーニングだと思いますがこいつは途中でクビになったので要らぬ心配でした。
さてそうこうしている内に練習が始まります。我々のチームは高校の施設を借り切っています。天然芝の練習フィールドが2面あり、傷んできたら養生のためにもう片方のフィールドを使います。この話から15年以上経つ現在でも、日本の現場で使用している組織はまだ少ない筈(*2)の自走式高所作業車(写真)を使ってビデオ撮影。撮影班は用具係ではなく、普段は高校などでコーチをしている人がステップアップのためにヘッドコーチから誘われNFLヨーロッパへ勉強というか研修に来ているわけです。元々はコーチですからフットボールのことを詳しく認識しているので見事なビデオを毎日生産してくれていました。
- (*2)高所作業車の許可証はスグに取れます。僕も持っています。これを2、3台グランドに買ってくれるチームが出て来ればビデオ撮影隊も楽ができるんですけどね。
使用していたビデオは「ベータ式」です。再生や巻き戻しの繰り返しにはベータ式の方が良いからという理由です。少なくとも150型くらいに投影して見るので画質も良くないとダメだからなのでしょう。当時の日本では最新型でも40型のブラウン管があった程度なのでプロジェクターで大きく投影するミーティングは衝撃的でした。そして音声は無しです。ビデオは撮影後に即シチュエーションや体型ごとに撮影者自らが手作業で編集するので必要ないのですね。これは試合のフィルムも同じで、音声は無しでした。
オフェンスコーディネーターがプレイブックをどんどん説明していきます。日本では日本語でも意味がわからなかったのに、流暢な早口の英語でまくしたてられるので付いていくのに(*3)物凄いエネルギーを要しました。
キャンプ中はホテル(*4)に滞在します。貸切ではありませんが、他のチームは別の場所でキャンプするので1つのホテルに1つのチームが滞在します。数部屋がミーティングルームとなり、いくつかの宴会場が貸切でチーム専用の食事が用意されます。一般のお客様とはほとんど会うことがありません。3度の食事が飲み放題食べ放題。最高の環境です。どんなに練習が大変でもその後にはスグ美味しい食事がお腹いっぱい食べられるのです。朝食はまあ普通ですが、味噌汁や納豆、白いご飯に焼き魚、漬物なんかが出てこない事が嬉しくてたまりません。お昼は芋、鶏や肉などのグリル、煮野菜、生野菜、ハンバーガー、ホットドッグ、パン、たまご、ピザ、などなどで最高の食事です。夜も同じような感じです。フットボールの合宿で、夕食にハンバーガーが食べ放題って最高すぎるがな!!
- (*3)本当はついて行けてない
- (*4)ホリデイインもリーグのスポンサー
ホテルは2人部屋で、ドイツ人(*5)のディフェンスライン「オーレ君」がルームメイト。フットボールの練習は1日に2回。合間にトレーニングやミーティングがあります。ポジションが違うので微妙な時間差はありますが、僕の中になんか違和感がありました。そしてアメリカ人たちがウワサしています。「おい、ドイツ人って臭いよな全員。あいつら絶対シャワー浴びてへんで!」と。そうなんです。オーレ君がシャワーを使っているシーンを見たことがなく、いつもタオルが新品。「オーレなんでシャワー浴びへんのん?」て聞きましたが、「あ、うん。別にー」みたいな感じでした。別にやないわ。洗え!クサいねん!
- (*5)ラインファイヤーはドイツのチームなので地元ドイツ人の有名選手が何名か居るのです
フットボールの練習も始まっていますが、大変な事になっています。予想通り全く歯が立たないどころか僕などハナシになりません。NFLのドラフトでピックされた後にベンチ入り出来なかった人がこのリーグに来ているのです。今まで2軍というかマイナーリーグが用意されていなかったところにこのワールドリーグ改め「NFLヨーロッパ」というマイナーリーグが出来たのです。オーレ君のようなドイツ人や僕らのような日本人、いわゆる「外国人」はチーム内にほんの数人だけです。他は本物のNFL選手、またはそれに準ずるレベルの選手ばっかりです。僕はトライアウトに受かって調子に乗っていますが、日本では1部リーグでほんの3シーズンしか経験していません。しかも補欠で。通用するはずが無いのです。つい同じヘルメットとユニフォームを着たりさせてもらっているので忘れていました。途方もないレベルの差がありますが、とりあえず上手くなるしか生き延びる道はありません。トレーニングキャンプは1ヶ月続きます。休みの予定も何も知らされていません。ひとつ終われば次の練習時間かミーティング時間を告げられるだけです。とりあえずホテルの近くに有るスーパーマーケットみたいなとこで買い物して気分転換。
部屋に帰るとオーレ君と同じドイツ人のアントニー君が来ていました。そして深刻な顔で「なあ多聞よ。たまごっちの ”っち” てどういう意味なん?(*6)」と聞いてきます。そんなん英語でどうやって説明すんのんな。今でもフェイスブックで繋がってますので教えてやりたいから誰か教えて下さい。
- (*6)世界的なたまごっちブームでした
