「ランニングバック」の技術向上に特化したコーチをしておりますが、ランニングバックというポジションの人だけでなく、ボールを持って走る可能性のある人全てに「知っておいてもらいたい」「守ってもらいたい」事を伝えて居ます。パスを受けるレシーバーも捕った後にたくさん走ることが出来た方が良いに決まっていますし、クウォーターバックも時にはボールキャリアーになります。キックされたボールを受ける「リターナー」もそうですし、守備選手がインターセプトしたらボールキャリアーになりますので、殆どのプレーヤにその機会は訪れる可能性があります。が、いかんせんフットボールというのは分業制。まずは自分の仕事をこなすのに精一杯です。つまり練習時間も限られている中で「いつかボールを持って走る時の為にタモンに習っておこう」なんていう余裕がある人はタマにしか居ません。1度や2度習っても大してうまくなるわけでも無いのですが、少しでもチームに貢献したいからと個別に習いに来るやる気旺盛な人もいます。
そもそもランニングバック以外のポジションからすると「ボールを持って走る」という行為は余分な作業です。自分に与えられている仕事の量も多く、種類も多岐に渡っています。それを瞬時の判断で選択し最良の仕事を実行、それがとてもうまく行った後にプラスボールが目の前に来る、そしてそれを持ってできるだけ前に運ぶ。この部分の為に時間を割いて努力する人など居なくて当然でしょう。しかもボールを持って走るだけなら子供でも出来ます。その他のポジションに与えられた任務に比べたらかなり簡易な作業と言えるでしょう。
でもランニングバックはそんな簡単な事だけを練習しています。それだけと言うと語弊がありますが、選手の関心ごとの90%は自分がボールを何ヤード進められるか?に尽きますので少しでも上手くなろうと努力します。簡単に見える事ほど奥が深く、永遠に極めることが出来ないと考えていても間違いではないでしょう。料理や音楽の世界、格闘技や武術、あらゆるスポーツでも同じだと思います。簡単そうに見えることほど難しい。
ボールを持って人と人の間を駆け抜けると言う技術は簡単そうに見えて実はやっぱり奥が深く、教える方も学ぶ方も大変で、試行錯誤して研究工夫し続けています。
が、今回はボールを持って走るお話ではなく、ランニングバックにとって重要な技術としてパスの時にQBを守る「パス・プロテクション」というのがあります。俊敏ですばしっこいRBはどうしても体の小さな人が多いものです。背が高く筋骨隆々で俊敏性が高ければ良いに越したことは有りません。
で、この「パス・プロテクション」は非常に難しい技術として業界内に君臨しておりますので殆どのRBからは愛されていないプレーの代表格であります。僕も若い頃はとても苦手としており、上手く行った記憶がありません。しかし、この「パス・プロテクション」が上手くなったと同時に、ボールキャリアーとしても一皮剥け、日本でも一流選手の仲間入りを果たしました。単純な技術としてだけでなく「守備選手からQBを守る」と言う使命全体を頭に描き自分が今どうするのがベストなのか?を理解し先読みし実行できるようになった事が要因だと思っています。
ボールが動き出したら敵の動きを予想し、それに負けないスピードとパワー、騙し合い心の読み合い、激突してから押し合いの中で様々なテクニックを駆使し合い、5秒ほどの1プレーが終わります。この中でどれか一つでも疎かにしたら敵にやられてしまいます。でも中級者の頃はこの中のいくつかは出来てもいくつかを忘れてしまい、焦ってしくじってしまう。という悪循環が続くので、ランニングバックは「パス・プロテクション」出来なくてもいいんじゃないのかな?なんて都合のいい解釈をして「パス・プロテクション」から逃げていました。
現在コーチをしていてもこの「パス・プロテクション」は見事に皆んなが苦手とし、昔の僕と同じミスをしています。昔の僕は単なる体力バカなので何も考えられず、攻撃の作戦を覚えるだけで心の病気になるほどにダメ選手でしたが、今僕がコーチしている選手らに当時の僕ほどのダメ選手は居ません。敵と味方の作戦を知り尽くし、自分がどうすれば良いのかも理解して居ます。あとはほんの少しだけテクニックを改造すれば良いだけなのです。
この「テクニック」はもちろんメカニズムとしては簡単で、結局のところフットボールの醍醐味である「激突力勝負」になるはずなのですが、みなさんがフットボールを始めた時に誰かに教わった激突(ヒットと言います)の仕方がとても変で、敵にヒットする直前に「今からヒットします!」という仕草を必ずするのです。そうなれば守備選手に取ってメチャクチャ親切なハナシで、対応策はいくらでも出てくるってものです。
相手の位置に対して、この距離くらいで構えて、膝を少し曲げてエイや!っと相手にヒットする。なんて感じで習ったんだと思うのですが、皆んなが全く同じリズムで同じ間合いで当たろうとするのです。そしてなぜか力の向きは斜め上方向に。誰が広めたんやろホンマこれ。
僕が初めてプロのアメリカ人とフットボールしたのが今から約20年前の1998年です。この時に最も感じた彼らの特徴は「手のひらでフットボールをする」というかヒットするのです。日本ではまだそれほど注目されて居ない時代でした。もちろん米国人選手は手が長いですから組み合えば僕など彼らにヒットが届きません。マゴマゴと「パス・プロテクション」に挑戦していたらコーチがコツを教えてくれました。要約すると「もっとドカーンと突っ込め!」と。
ドカーンと突っ込むとどうなるか聡明な読者の皆さんならスグにわかると思います。そうです。見事にスカされて触れることも出来ず恥を晒すわけです。が、その失敗を繰り返すうちに相手が僕と当たる時に左右どちらかに動く、または僕を押し込もうと強く前進して来るその前に相手の間合いに入り込んでヒット出来るようになってきたのです。NFLにドラフトされるようなプロのラインバッカー相手にです。「ドカーンと突っ込め」の真意が見えてきて、それからずっとプロのラインバッカーとの勝負を楽しめるようになって行ったのです。
僕が上手くなれた理由の一つですが、慣れたやり方で上手くいかないならコーチの教えを100%信じて自分をフルモデルチェンジしてみる。全く新しい自分になってみて、そのやり方で褒めてもらえるまでチャレンジし続ける。アンタの言った通りにやってるけど全然上手くいかないよ!とグチりまくりながら何度も何度も全力でやってみる。このままやってりゃ絶対上手くいく。コーチがわざわざ嘘をつくわけない。嘘だったらぶっ殺す。効果が出ないのは飲み込みの悪い自分の責任だ。練習が足らないんだ。じゃあもっと練習だ。絶対にこのやり方で新しい自分に生まれ変わってやる。と思い込む。今振り返るとこれが僕の特徴だったように思います。
みんなをそこまで信じさせられていない僕の人間性や言動に問題があるのは明確ですが、僕も武闘派のスポーツマンでしたから塾や学校の先生のように「教える達人」ではありません。ですから選手の皆さんが何が何でも喰らい付いて僕から情報を奪い取ってください。嘘は言わないし上手くなって成功して欲しいと心から願っているんですから。
最近は大型のアメリカ人選手がウヨウヨしていて「パス・プロテクション」は大変です。でも大きな選手とこれでもかというほどのハードヒットで勝負している小柄な選手が居たらカッコイイですよねー。セコくて賢くて上手いヤツではなく、魂のあるオトコが冬にヒーロになっていることを願います!!
