多聞コラム20july2016_vol,138 コーチという生き物

 選手時代、コーチと言う生き物について強烈に思っていた事があります。それは「お前の経験値を上げる為に必死でやってるんちゃうんじゃ。俺を実験や勉強に使うな!」です。

コーチにも色々居て、新人さんも居ればベテランも居ます。しかしコーチというのは学校の先生と同じで結構威張っています。日本の社会通念上、そうなってしまうのは無理がありません。先に生まれると書いて「先生(センセイ)」。先に生まれた人を敬う。という教育を受けてきた日本育ちのマトモな人間にとって「コーチやセンセイ」には従え。という決まりごとがあるのはご存知の通り。

「コーチは偉い」という図式が凄くイヤでしたが「コーチ出来るほどの知識を持っておられる」事には尊敬の念を抱いていました。しかし大方のコーチは試合や練習を運営するだけでいわゆる「指導者」とは少し違うものでした。

昨今の僕がやっている活動「タモン式ランニングバック養成所」では屋号の通り練習や試合の運営が仕事ではありません。選手が1プレーで何をどこまで出来るようになれるか?だけに焦点を絞っています。選手の一挙手一投足をよく観察し、短所と長所を見つけ、修正したり伸ばしたりのお手伝いをします。NFLを見れば全員がやっている事もニッポンでは何故か「禁じ手」として認知されているテクニックも多くあるので、選手らに「気づき」を与えて「そんな馬鹿な?!」から自分で色々調査する中で段々と確信に変わり、挑戦してもらうことになります。あとは咄嗟の時にも体が反応するまで反復してもらいます。

この知識は1998年にNFLヨーロッパで教えて貰った「僕にとって革命的」だった考え方を、その後何年かかけて自分で十分に咀嚼して組み合わせたものです。それをただ伝えているだけです。これまでは伝える場所や機会がなかったので秘密にしていただけです。自分も忙しくてそれどころではなかったのもありますが。

そんな中、昨シーズンの終わり頃にIBMビッグブルーの末吉選手からヘッドコーチの山田晋三氏を介し「自分を教えてくれないか」というオファーを頂戴しました。

最初に思ったのは「晋三もっと早よ言うてこいよ」でした。学生界で猛威を振るっていた末吉選手のことは他人に興味のない僕でも知っていました。荒削りで力任せに走っている事も認知していました。その彼が晋三のチームに行くと知り「晋三、そいつを俺に教えさせろ。絶対エグいランナーに育てるから」と勝手に思っていました。新卒時からシゴキまくれば相当良いランナー(この時点ですでに日本一のランナーだが)になるぞ!と。しかし残念な事に(というより当然)晋三からオファーはなく、数年経ってから彼の走りを見たら全く伸びていないのです。それどころか。。。。

そしてようやく今春から彼を指導させて貰う機会を得、15週間全ての練習に参加し最善を尽くしました。しかし生まれも育ちも傲慢な僕はギャラが発生していなかった事もありだんだん「教えてやっている」という感覚に陥ってきたのです。これは良くありません。練習場に行くのが億劫でたまりません。情熱は全開のままですが傲慢な気持ちを拭い去れなくなってきました。このままの気持ちでは暑い夏の練習を乗り越えられるワケがない。という確証に変わってきました。

先日僕の友達がSNSでボランティア活動について『やらせて頂いている。という謙虚な姿勢を貫かねばならない。相手がいて初めて成り立つ事であり、周囲の人の協力に感謝出来なければカスだ』と書いていたのですが、まさしくそうだと感じました。

先週このコラムで「僕はランニングバックの事を皆さんより少しだけ多く知っている」と書きましたが、それを選手たちひとりひとりにどうやって伝えるか。実はココが最も苦労する部分です。僕の経営するお店では僕より随分若い人たちに働いてもらっていますので、若者の生態はある程度認識しています。簡単にこちらの要望が通るハズが無い事も知っています。しかし物事を伝える事がこれほどにエネルギーが必要とは新発見でした。幸い、絶対的に自身のある事柄についての指導ですから質問に答えられないというような事はありません。しかし選手が本当に理解して信用したのかどうかがわかりません。この場は面倒くさいから「わかったフリ」をしているかもしれません。

100%正しい情報を開示する上に、彼らが得たい情報を話しているのに理解してもらうのに時間がかかる。これは非常に歯がゆくストレスになります。ここでいきなり手こずっていては先が思いやられる。という理屈です。日本選手権で最優秀選手を目指すレベルの選手らに関わっていますので、日本一の結果が求められています。しかしこの中で教える側の僕も毎回成長していくのを感じます。新しい組織に入ればその組織のルールがあり文化や伝統があります。そして友人(向こうがどう思おうがこちらはそう思っている)も増えます。

この春からやってきた中で僕自身が成長したことにより変化したカリキュラムはありません。「これは教えても無駄なんだ」という事が分かったことは有ります。僕自身には効果があったがこの人には効果がない、というような事はまだ発見していません。

僕の能力が低く、選手に迷惑がかからないかに細心の注意を払っています。選手の短い現役時代を自分の成長に利用するのは重罪です。コーチになって半年にも満たない初心者の僕ですが、この時のためにずっと勉強して温めてきた「タモン式独自のメソッド」の内容が後にバージョンアップしても現在の内容が見劣りしない事を現在指導させてもらっている選手らに誓います。

大っ嫌いだった「選手を実験台に使って自身の成長に使う」コーチにはならないように、今後も注意していきたいと思います。

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