「ゴリゴリ多聞、自伝を語る55」グリーンベイに行きます
日本代表の合宿も後半で、みんなの疲れが出始めて治療エリアが随分と混雑してきました。僕はけがとは無縁で、とにかく筋肉痛との戦いでした。
トレーナーたちに治療を受けたりという経験もほとんどなかったので、痛みのあるところを人に申告するなど恥ずかしくてできません。ですから自分でなんとかしようと努力します。
足の裏を電動でゴリゴリしてくれる足裏マッサージ器と、背中をたたく機械が必需品です。合宿には車で行っていたので、荷物が重いのは問題ありません。あとはアイスキャンデーとビールで体を冷やし、食料を大量に体内へ流し込めば体力は維持できます。
つい先日まで本物のアメリカ人たちと本気の練習を経験してきた僕にとって、この合宿は問題のない強度でした。
テレビでしか見たことのない超のつく名選手たちと寝食をともにし一緒に練習する。これは本当に幸せな時間でした。
日大OBでシルバースターから参加しているキャプテンの佐々木選手にレシーバーの梶山選手。QBは、こちらも日大OBでオンワードの須永選手に京大OBの金岡選手。
名前を挙げるときりがないスーパースターぞろいです。やっと自分もここまで来たんだなという実感がようやく湧いてきました。
上を目指してがむしゃらに取り組んできた20代ですが、30歳目前でどうにかこうにか「日本のトップクラス」というシートに座る権利を得たわけです。
しかし、ここで満足はできません。中学生で河川敷のプライベートからフットボールを始め、3部リーグの大学を経て、社会人2部の三武ペガサスで修行、サンスター・ファイニーズで苦労しNFLヨーロッパ(NFLE)を経験。日本代表にも選んでもらえましたが、僕にはまだ肝心なことが足りていません。
それは「実績」と「実力」です。この代表合宿に招集されたメンバーは、僕以外のほとんどが学生時代に名をはせ、社会人でもバリバリ活躍している人ばかり。どの人も輝かしい経歴を持ち、選手としての能力も周りの人が100%認める実力をお持ちです。
ところが僕のことはみんな知りません。代表合宿前にタッチダウン誌のインタビューで僕のことを質問されて「体が大きいことしかわからない」と金岡選手が答えています。
そうなのです。まだまだその段階なのです。日本代表のチーム内に「あいつ誰?」とQBに思われているRBって有り得ますかね。普通では考えられないですよね。
つまりコーチを含めて、代表の誰からも信頼されていないどころか認知すらされていない存在なのです。これが現実です。
スーパースターたちはNFLEの試合など興味なく、CS放送を見ることなどないのですね。ですが彼らも少しは僕に興味があり「ドイツ人ってどんなレベルなの?」なんてトンチンカンな質問をしてきます。NFLEがアメリカ人で構成されていることすら知らないのです。
ただ、この問題はしっかりと練習で自分の能力を表現し、みんなに自分を知ってもらうことである程度解決します。
結局「多聞って奴は頼りになるなー」とまではいきませんでしたが「日本トップクラス」からはじき出されるような事態にはなりませんでした。
合宿は大きな事件もなく、けがなく無事に終わり大阪に帰りました。そしていよいよパッカーズのキャンプに参加するため、ウィスコンシン州グリーンベイへ出発です。
サンフランシスコで乗り換え、グリーンベイの空港へはプロペラ機で向かいます。空港にはパッカーズ事務局のマッチョマンとNFLが用意してくれた通訳の日本人が迎えに来てくれていました。
事務局のマッチョマンが差し出した名刺には当然あの緑色の「G」のマークが入っています。感動です。自分のフットボール人生で「GREENBAY PACKERS」の人から名刺をもらう日が来るなんて感激です。
空港から車で宿舎となっている大学の寮に向かいました。ルームメートはもちろん河口マーサです。
翌朝、契約書にサインをして練習に参加します。そうです。いよいよ明日からNFL選手なのです。ワクワクしすぎますが、体力を温存するためにも、今夜は飲みに行かずおとなしく就寝します。
