ワールドボウル
大雨が降る中、試合が始まりました。大歓声は大雨だとあまり響かない事を初めて知りました。ファイヤーのフリーフリッカーからロングパスが決まり相手陣内へ侵入。ゴール前に近づき3rdダウンでパスのコールでしたが僕はRBのポジションに。するとQBがセンターからのエクスチェンジでボールを地面にファンブル。ボールを落としたQB本人はまさかの出来事にボールを見失っています。味方の11人でマイボールがファンブルで地面を転々としているのを知っているのは当然RBでQBの後方に位置している僕だけです。しかし同時に敵の守備選手からもそれは見えています。あんな大男らとリカバーで激突してボールの奪い合いなど猛烈にイヤです。イヤでイヤで仕方ありませんが仕事ですので行くしかありません。この余計な迷いは0.3秒ほどだったでしょうか。僕は猛ダッシュでビショビショに濡れた天然芝を頭からスライディングしてどうにか敵にボールを取られず、尚且つ痛い目にも遭わずにリカバー成功。次の4thダウンはフィールドゴールで先取点を得ます。試合はそのまま一度も逆転されることなく完勝。エースQB(ダラスカウボーイズから派遣)が試合前に怪我をして控えのQB(初先発:シアトルシーホークスからの派遣。現在は母国アメリカでコーチ業)で臨んだにもかかわらず、これといったミスもパニックもなく、いつもと変わらぬ「ラインファイヤーオフェンス」を演じられるアメリカ人の奥行きにビビりました。
勝利チームには表彰式が待っています。キラキラ光る紙吹雪が何かしらの機械から大量に噴射され、フィールドは凄いことになっています。スーパーボウルでお馴染みのとてつもなく巨大な表彰台がいつの間にか用意され、その上ではコミッショナーのオリバーラック氏(アンドリューラックのパパ)から「ワールドボウル」のトロフィーをヘッドコーチが授与されています。補欠の僕も数名しか登れない表彰台の上に呼ばれてもないのに勝手に登り、ベンチに隠しておいた自作の優勝ハチマキを巻きレギュラー選手が喜びを分かち合っている所から早々に奪い取り、メディアが沢山いる方に向かって両手でこの「ワールドボウル」を頭上に掲げてポーズを取りました。物凄い数のメディア陣が一斉にストロボを光らせます。何せ150カ国で放送されているワケですから日本のソレとは桁が違います。興奮しきった僕はカメラの前で散々騒いで次の人にトロフィーを渡しました。
そして次は表彰台から降りてファンの所へ行きサービスです。ファイヤーのファンはまだ興奮したままでスタンド内でチームの応援ソングを大合唱しています。チアリーダーも大雨の中でダンスを続けています。試合が終わり、選手としての仕事は終了していますから少しぐらい遊んでも怒られる事はないと踏んだ僕はチアリーダーらと一緒に優勝のダンスを舞いました。このシーンをタッチダウン誌でご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。2ページブチ抜きのフルカラーで、フルスタイルの選手がブロンドの白人チアらとダンスする写真など真面目な専門誌にとって最初で最後のサービスカットだったのではないでしょうか。
ほとんどのお客さんがスタンドを追い出されるまでグランドに残ってサインしたり握手したり写真を撮ったりし、ロッカールームに入りました。選手らは中で大騒ぎです。タキシードを着たウェイターさんがシャンパンを丸いトレーに乗せて配っています。選手がハダカでウロウロしているロッカールームですよ。そしてそのシャンパンでカンパイ&イッキ大会です。もったいないのでシャンパンファイトは一部で軽く行われた程度でした。そして大きな葉巻も沢山用意されていました。葉巻とシャンパンはアメリカではこういう時に必ずセットなんですね。以前も映画で見たことがあったのを思い出しました。
着替えて試合会場を出た僕たちは打ち上げ会場のスポーツバー「チャンピオン」へ行きました。そこにはチームメートやリーグの関係者が楽しそうに飲んでいました。以前にもこのコラムで書きましたが、ここであのロニーロットさんと同席させていただく事になったのです。と言うより僕らがビールを片手に座っているテーブルにハッと横を見たらロニー先輩が座ってらしたのです。僕が日本から持って来ていた「さそり団」と書かれた赤いステッカーはチームメートらと飲みに行く時は必ず大量に持って行き、周りに居る外人(僕から見れば全部外人)に「デコに貼れ!」と渡しまくって、その店に居る人らがみんな「さそり団」ステッカーをデコに貼っています。ロニー先輩も「おいタモン!それ俺にもくれや!」と仰るのでもちろん差し上げました。NFLで最も残虐なハードタックラーとして最強の守護神だったロニー先輩が異国ドイツで僕みたいな者と一緒にデコに日本語のステッカーを貼って気のいい酔っ払いに変身しています。ロニー先輩はこの後「イイ話:フットボールはココや論 」を僕にしてくださいます。
翌日、二日酔いの中フランクフルトを去り、あとは納会みたいな集まりと細かい契約の事、故郷へ帰る飛行機の事、利用していたロッカーやホテルの部屋の整理、チームメートらの連絡先交換兼借りパクしてたCDの返却、ヘルメットは持って帰るなよ。無くなってたら100ドル給料から差し引くからなというヘッドコーチからの通達。って逆に言えば100ドル払ったら貰えるんかいな!と僕は大喜び。もちろん一つもらって帰りました。今でも実家に飾ってあります。
6/14 World Bowl ’98 at Frankfurt Galaxy W 34–10
