世界選手権2015 ver2
「ONE PLAY AT A TIME(このプレーに集中せよ)」。試合の途中で、優勢でも劣勢でも痛くてもしんどくても辛くても雨でも雪でも関係なく今やらねばならないプレーに集中!という意味なのだと、アサヒ飲料時代にトムプラットコーチ(現カーディナルズ)から毎回の練習で叩き込まれました。そして僕なりに付け足した考え方が「勝敗は監督に任せとけば良い。俺たちはプレーをするだけだ」です。この2点を信念に30代前半の頃、FOOTBALLを楽しんでいました。
今回の世界選手権でインタビューに答える選手らも「1プレー1プレーに集中して頑張る」といった意味合いのコメントをよくしています。圧倒的に勝利したメキシコ戦では、怯えず健やかな顔つきで溌剌としたプレーを見せていました。ベンチで待つ選手やスタッフの顔も穏やかで自信に満ち溢れていました。
が、敗れたアメリカ戦ではチカラを発揮できず終始沈んだ雰囲気。コーチやスタッフまでが悲壮な顔つきでゲームオーバーを待つだけでした。そりゃそうでしょう。前半から何もさせてもらえず30点もリードされる試合など殆ど経験した事がないエリート軍団ですから。窮地に追い込まれた時に何が出来るか、どう振る舞えるか、その人の真価が問われるワケですが、心の困惑を見事に顔や態度に出し焦る日本代表のベンチ。
「優勝出来るかそうでないか」にこだわりすぎて「全力を発揮する」「集中する」事が疎かになっていたと感じます。相手が強すぎたのなら、試合には勝てずともせめて「爪痕を残す」ことぐらいはできたのではないかと。
では「1プレー1プレーに集中して頑張る」というのはどこに行ってしまったのでしょうか? 日本じゃ敵無しで最強の選手らが、NFLに1名が呼ばれたとは言えアマチュアレベルのアメリカ人に翻弄され、タックルやブロックをビシッと決める事が出来ません。アメリカ人の技術とパワーに振り回され、日本国内での試合とは比較にならない程の体力が消耗し「1プレー1プレーに集中して頑張る」どころではありません。
なぜこんな事になってしまったのか?これはまず「国内敵無し状態」が元凶です。普段は笑いながら軽くやっていても勝ってしまうので、本気の本気でプレーし続ける必要がありません。速く、巧く、器用で、インテリジェンスもコーチ並みに一流。少し気の抜けたプレーをしていても、上手にリカバリーして大火傷を負う事もないので、指導する側は何も言う必要がありません。この状態をスタンダードとして日々の練習をこなしていると今回のような大事故になってしまうのです。
普段の甘い考えを「甘い考え方だ」と認識し、払拭させる事が出来なかったのは選手自身の甘さもありますが、コーチの責任が重大です。米国がどんなレベルのチームを用意してくるのかわからなかったとは言え、最強のNFL軍団レベルが来たら負け。そうでないのが来たら勝てる。という「相手次第の運試し」をしていただけではないだろうか。
そしてここにもまた現代ならではのややこしい問題があります。それは甘やかすとつけ上がり、厳しく叱ると拗ねてしまう現代の「オンリーワン好きなヤング達」です。そこに配慮というか根負けして若者の波長に合わせてしまうコーチらに、統率力が不足しているのではないでしょうか。
選ばれし国の代表ともなれば「ゆとり世代」や「新人類」など何の言い訳にもなりません。国旗を掲げて国を代表してフィールドに出るならば、競技の実力だけでなく、すべての面で日本の代表となるわけです。荒くれ者でも良いでしょうし、大人しくても良いでしょう。しかし疲れ果てて腰が引けた弱気プレーばかりを国際映像で見せられた日本のファンはとても悲しく、日本フットボールの未来は真っ暗闇だと痛感させられたと思った人が多く居ます。
試合後半に負けが決まってから「こんちくしょう!」「悔しい!」「一矢報いてやる!」という気持ちはどんな三流選手でも心の底から自然に湧いてくる現象です。負けが見えて悔し泣きしながら最後に一発だけパンチを入れるのは戦いとは言えません。そのパンチを入れる「気持ち」を最初っから全開で発揮し、せめて「負けて元々」「やれるだけやったる」という気概を散々披露した上で負けたのなら仕方ない。アメリカ人もボロボロになり、『試合には勝ったが日本とは二度とゲームたくない!奴らはサムライウォリアーだった!』というコメントくらいはさせて欲しかった。
第1戦を戦う前、いやそれより何ヶ月も前からに米国が手強いというのはわかっていた筈です。それでも綺麗に勝ちに行こうとした。綺麗な勝負をしようとした。「優勝出来るかそうでないか」を考えすぎ、米国チームに対し自分たちは何が出来るのか?を甘く見積もりすぎたコーチのミスと感じました。
勝負事になればたとえ子供の遊びでも「本気を出す」習性を持つ米国人。対して「本気を見せるのがカッコ悪い」日本の若者。いつものニヤけたノリは実力が下の相手だとリラックス作用もあり抜群の効果がありますが、今回は全て裏目に出てしまい、米国はいつまでたっても本気を出さないヌルい日本の試合運びを不思議に思いつつ、最初からフルスイングで脳内麻薬出しまくり。これでは仮に元々の実力が同じだったとしても勝機などありません。
実際のフットボール選手としての性能は、それほどの差は無いのかもしれません。しかしその性能と言うのはアクセル全開にした時に出る最高出力のハナシです。アクセル全開で48分走れる頑丈なエンジンなのか、それとも10秒しか走れないのかはスコアボードが示してしまいました。
その昔、京都大学の水野彌一氏が「実力の全てを試合で発揮させるのがとても難しいのだ」と話しておられました。一癖も二癖もある代表メンバーの手綱をコントロール出来なかった方が負け、しっかりコントロールした方が勝つ。勝負の世界では至極当然の理屈。「ONE PLAY AT A TIME(このプレーに集中せよ)」を実行する為の「ハート」がコーチに少し足りなかったのだろう。ただ、もしかしたらコーチと選手が最高に噛み合っていて「全力で根性を込めた状態」であったのならフットボール業界が非常に心配である。
