3年ぶり、青と赤の甲子園。両チームの素晴らしい戦いっぷりに贔屓のチーム関係なしに感動された方も多かったのでは無いでしょうか。僕もその一人でした。ここ数年は現地で観戦したりサイドラインに居たりで、テレビで笑いながら観るのが久しぶりな甲子園でした。
甲子園は内野が土のママなのも僕が学生の時以来。あ、出てたわけじゃなくテレビで見てただけです念のため。トップのチームはこんな条件で決勝戦をさせられるんだと、当時ビックリしたのを思い出しました。現在トップレベルでプレーするフットボール選手は土フィールドでの練習や試合経験が全く無いの人が多く存在すると思います。その中で、シューズ選択が難しくなかったんだろうか?と感じました。土と天然芝では、履くシューズは違いますからね。今回の甲子園に似たフィールドとしては潮の満干でぬかるんでくるサンフランシスコ49ersのキャンドルスティックパークがありましたが、当時は地面にしっかり刺さるタイプのスパイクを全員が使用していましたしね。ジョーモンタナ然り。
未熟な選手だった頃の僕は、少しでも有利に体を動かす為、試合会場には最大で7足のシューズを持ち込んでいました。その日のフィールド条件と自分の体調に最も適したのを履く為です。レーシングカーが天候や気温とマシンのセッティングでタイヤを選ぶのと全く同じ理屈ですね。ま、繊細でセコい話です。
甲子園や東京ドームで開催されるチャンピオンシップゲームは、前日などにグランドの具合を確かめるのも含めて両チームに現地での練習時間が与えられています。遠征してきている側は既に家からカバンに入れて来ていなければそもそも「シューズ選択」が出来ません。土で試合をした事がない人たちが、本番で使うかどうかもわからない地面によく刺さるシューズをわざわざ買って遠征に持って行ってるのだろうか?と勝手に心配していました。僕の身近に居る学生選手はほとんど皆んなが練習も試合も同じのを1足だけ使うてるので。滑らなかったのかな?って思うシューズを使っていた選手が多く見受けられたので、選択してそれを使ってるのなら良いですが、それしか持っていなかったとかならちょっと残念だなと。
前置きはこれぐらいにしまして、ゲームの内容について僕なりに感じた事を柔らかく斬っていきたいと思います。
ここ数年、社会人と学生の両方でコーチとして勝つ為の活動を真剣にしていたのですが、とにかく困る事がありまして、その堂々の第1位は「センターのスナップが安定しない」事でした。ショットガンフォーメーションでは最初にセンターがQBにボールを投げてプレーが開始されますので、QBが守備を眺めながらでも捕りやすい場所に速くて優しいタッチの投球をする事は「試合の日時と場所を間違えずに来る」と同義です。それが出来なければ何も始められない上に、周りの選手がそのリカバリーに追われまくります。スナップされたボールが予定より少しズレる事により、あらかじめ決められて練習に練習を積んであったタイミングと場所でランニングバックがボールを受け取れない事態に陥ります。なんの為の練習やったんや。って事です。
ランニングバック側としては折角の自分にボールが回って来る機会ですから活躍したいです。だからスナップの影響で全てがズレたセットプレーを自分の能力で一瞬のウチで元に戻さねばなりません。リーグのレベルより高い能力のランニングバックであれば心理的に余裕があり、仲間の未熟さをカバーする事ぐらい軽いモンですがギリギリの線で勝負している人がほとんどですので大きな大きな負担になってしまいます。
で、甲子園ボウルに戻しますと、両チームともにスナップの乱れが無い。無くは無いけど全く問題になるレベルでは無いと言いますか。コレはランニングバックやQBにとって、約80プレーの中で自分の仕事に集中出来る環境が80回用意されるのと、1度か2度しか用意されないのとでは随分と違います。
それだけのクオリティを両チームのセンターに備わっていた事、学生のトップレベルではコレほどなのかと驚かされました。これは僕が昔に感じていた神聖なる「甲子園ボウル」に出て来る選手像にピッタリ当てはまります。ミスやアクシデントでスナップが乱れる事はアメリカのプロでも起こりますから、それは仕方ありません。しかし、度々乱れるスナップを投じているセンターは猛練習して、1回もミスらないようになる必要があると改めて思いました。
攻撃のラインマンに注目していた点がもうひとつあります。僕は完全に観客となってゲームを楽しんで見ているだけでしたので、詳しくはチェックしておりませんでしたが、オープンのランプレーが随分進むな。と序盤に感じたのでしっかり見てみました。
ラインマンが集まっていて混雑している真ん中のエリアを「ボックス」と表現します。そのボックスの一番端っこを「エッジ」と呼びます。そのエッジよりも外に行くプレーを「オープンプレー」と言いますが、オープンプレーはこのエッジを担うオフェンスラインなりブロッカーがしっかりと敵を抑えておいてくれるとその外側を守る人数が僅かしか残りません。タックルするのがそれほど得意で無い、主にパスを防ぐ要員であるディフェンシブバックが守る外側のエリアをスピードに乗ったランナーが走ってくればゲインしやすくなるのはどなたにもご理解いただけると思います。
敵味方共に移動し、プレーが始まってみないとどの辺りが「エッジ」になるか予想するしか無いのですが、このエッジ部分を守備側に押し込んだ上に外側にも来させないという強烈であり理想的なブロックが何度も見られました。圧倒的に力の差がある試合ならともかく、両チームの技量はほぼ互角な筈なのでここまで綺麗にエッジ担当者がセットプレーを完了させている事に驚かされました。
それに加えて、ボールを持って走る選手の前や周囲、ブロック出来る出来ないに関わらず、自分の後ろがどんな状態になっているかの把握が出来ていて、それに適した仕事を自分の限界レベルで遂行しようとしていた点にも目が行きました。攻撃ラインマンは体が大きく、速いスピードで走る事が不得意です。ましてや高速で走りながら方向を変えて敵をブロックするなど至難の技です。
邪魔なブロッカーの代表例は、自分が走り始めてから確実に守備をブロックしようとしすぎて、自分の間合いで速度や方向を変えてしまう奴です。自身の鈍足さを鑑みずボールキャリアーとの速度差で完全に邪魔な存在になるのです。空振りでも良いので遅い足で余計な動きをせずエンドゾーンに向かってまっすぐ君の最高速で走っててくれれば、ボールキャリアーが君を使って上手くすり抜けられるんですよ。
これが両チーム、しっかりと出来ていましたね。数少ない僕の師のお一人である関西学院ファイターズご出身の熊野(隆文)さんに伺ったところから「そんなに教えられていないと思うよ。365日をどれだけ本気で勝ちたいと思って過ごして来たか」だと教えていただきました。
そこまで「勝ち」にこだわるのがスポーツ、いやタモン式RBの絶対的なルール。レジャーじゃないんですからね。
自身の経験を振り返ってみても、確かにそうでした。「勝ちたいよね」「俺たちどれくらい強いんだろ?」なんて言ってる時は地区優勝どまり。でも「絶対勝つぞ」「もっともっとやらんと勝たれへんぞ」ってチームの全員が年がら年中本気でそうなった時に強くなったもんです。
両チームともボールキャリアーの個人技はここ数年で最もハイレベルだったと感じますし、関西学院の用意している事の数とクオリティに感心させられました。驚きっぱなしの甲子園ボウル2020でした。あー面白かった。