多聞コラム20nov2020_vol,256「タモン式教本36」 ファンダメンタルとスキルの違い

ファンダメンタルとスキル

自分の選手時代も同じですが、能力を高めたいと思っている選手にとって共通の問題があります。もちろん今回挙げる事だけではなく、問題は無限に起こりますよね。

似たようで全く違う2種類の問題。ひとつは「スキル(かなり難しい)」で、もうひとつは「ファンダメンタル(本当はできるけどやってない)」です。どちらも油断して読んでいると(聞いていると)「出来ない」は同じですが中身が全然違います。

前者の「スキル(かなり難しい)」の例ですと、100m10秒以下で走りなさい。フルマラソンを2時間少しで走ってね。どんなパスが来てもキャッチしなさい。必ず敵のマークを外しましょう。絶対にファンブルしないでね。反則はしないでね。相手にビッグプレーをされちゃダメ。相手に勝つ、試合に勝つ。これらは簡単ではありませんし注意して集中していても中々かないません。

後者の「ファンダメンタル(本当はできるけどやってない)」の例は、思いっきりやりなさい。フルスピードで走りなさい。右足から動きなさい。タックルされそうになっても逃げようとしてはダメです。ボールは割れてしまうほどキツく持ちなさい。というような、勝負の結果ではなく、取り組みの問題です。うっかりミスが中心です。

ヒットの弱い選手でも思いっきりやれます。必ず敵をぶっ飛ばせとは言ってないですからね。足の遅い人もフルスピードで走れます。競争して1位になれとは言ってないですから。右足から動くこと、誰でも出来ます。タックルされそうでも嫌がらず怖がらず我慢すれば誰でもそのうち出来るようになります。このタックラーを体当たりで吹き飛ばせと言ってません。負けても良いから逃げずに向き合いなさいと言ってるのですから。ボールを思いっきり持つのは誰でも出来ます。絶対落とすなとは言ってません。これらのファンダメンタルは注意を払っていれば、スポーツ選手なら実行できる事ばかりでしょう。

ただ、他の運動と組み合わさった途端難しくなり、それぞれが頭からうっかり消えてしまいます。例えば、タックラーが向かってくるシーンを切り取った練習で、右足からスタートして、最初は全速力で走ってください。その後タックラーが来ますのでタックルされてしまわないようにエンドゾーンまでたどり着いてください。というドリルでも、勝つ負けるの結果に意識が行きすぎて右足からスタートするのを忘れる、ボールを割れるほどキツく持つのを忘れる、敵が迫って来るのが見えるので全速力で走れない。これは大抵の未成熟な選手が抱えている問題です。しかし本人らは問題視していないのがまた大きな問題と言えます。ドリル内の勝負では負けるかもしれないけれども、制約されたファンダメンタルを遵守して課題をこなす重要さを理解していれば最初は負けが続いても技術が身につくまでの辛抱。上達したその後は白星続きになるのは言うまでもありません。ほとんどの人はこの時点で我慢ができません。これでその選手の流派は「自己流」となり上級者に対峙したときには最も簡単に倒されてしまうケースがほとんどです。

確かに全てをしっかり守る(複合ファンダメンタルズ)のは難しいことですが、今の実力でも十分に出来るのだけれども「意識し忘れる」が多発します。つまりこれは無意識下では制御できない日常生活とかけ離れた「ランニングバックやフットボールの専門的な技術」なので、訓練が必要なのですね。無意識でも出来るようになるための訓練です。これが地味でつまんない。皆んな嫌いです。僕も選手時代、もちろん嫌いでした。

ただ、この複合ファンダメンタルズに関しては時間とエネルギーをかけて努力さえすれば段々慣れてきて必ず上達します。上達するまで続けるのですから必ず結果が出るのです。当たり前ですよね。人によっては1回アドバイスを受ければ次からマスターしてしまう人も居るでしょうし、1000回やって少しだけ上達する人も居るでしょう。「才能」の差です。

僕は子供の頃から長い間フットボールやスポーツに関わっていますが、やはり上手くなったり試合で結果を残すのは「才能」が大きく影響するのは否めないと思います。才能と言っても色んな種類の才能があると思います。体躯に恵まれていてその競技やポジションに最適なサイズを持っている。上手い。力や体や気持ちが頑丈で強い。早い。これらに恵まれてはいないが努力を継続出来ることも大きな才能ですし、痛さや苦しみを乗り越えられる我慢強さも立派な才能と言えるでしょう。その他にもスポーツで勝利するための才能はたくさんあると思います。

でも僕の中の統計では、才能の少ない人は地味で地道な努力もちゃんと苦手という傾向があります。本人の抱える問題の中でも、最も克服しておかねばいけない大ごとであればあるほど逃げようとします。社会人選手であれば得手不得手があっても「得手」の部分で戦って行くことが出来る場合も多いですし、ほとんどの選手が「ライスボウル優勝」を目指しているのですが、大学生の場合は下級生時代は練習には来ているだけで何もさせてもらえず当然試合経験も無し。学生生活残り1年か2年、上級生になってから真剣に練習をしていると弱点が露呈。でもチームではほぼ1軍だから「何が何でも今以上の選手になってやる」「ライスボウルで社会人を倒せる選手になってやる」といった気概にはなれないんですよね。チームではほぼ1軍ですから。

貪欲に上を目指すには結局のところ昔から伝わっている「他人よりハイクオリティな練習を何倍もし続ける」しかありません。体と心を鍛え、チームの練習を誰よりも必死にやる。それはスポーツ選手としてのスタートラインでしょう。チームの練習だけではチームやリーグで一番の選手になれるワケがありません。

ファンダメンタルを徹底的に反復し、無意識下でも自動運転できるまで体に染み込ませる。そして完成されたファンダメンタルズを使って自分に必要なスキルを学んで訓練、1つ1つマスターして達人になっていく。

この繰り返しした実績があってこそ、ゲームデイには自信に満ち溢れ、最初っから最後まで迷いなくプレー出来るようになるのです。

僕はこのコラムで何度となく「基礎基本はとても重要」と書いていますが、今も昔もNFL選手の凄さは基礎の凄さであることは明確です。ド派手なワンハンドキャッチや太すぎる筋肉、俊敏すぎる動きに惑わされてはいけません。彼らは基礎が凄いのです。ファンダメンタルがすべてなのです。だからアメリカ人を追いかけるならばとにかくファンダメンタルの習得が先決なのですよ。

敵に勝つか、ゲームに勝つか、それはその時その相手次第ですから自分が厳しい鍛錬を積んできたからと必ず勝てるわけでもありません。寝る間遊ぶ間を惜しみ自分の役割を全うする為に出来る事を全てしておくのが選手の仕事。

コーチはコーチとして、選手は選手としての誇りを賭け、全ての時間とエネルギーを注ぐのが僕の考える「フットボール」なんですよね。でも我々一般の人間は、それぐらいやってようやく才能に恵まれたスーパーマンや天才らと同じ土俵に立つ資格を得られるのですから。

これからだんだんと冬のオフシーズンですね。2021シーズンはコロナでどうなるかわかりませんが、毎日毎日休まず地道にコツコツとつまんない基礎トレ基礎練習を繰り返しておいてくださいねー。きっと自分に誇れる未来がやって来ますから。

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